初めての溺愛は雪の色 ~凍えるため息は湯けむりにほどけて~



 瑚桃は廊下で蓬星を見つけると、すかさずすり寄った。
「知ってます? 先輩、今度、混浴露天風呂に旅行に行くんですよ」
 蓬星は顔をしかめて彼女を見た。
「先輩、男の人に裸見られたいんですね。逆に男性の裸が見たいのかも。ちょっと飢えすぎですよね」
 くすくすと瑚桃は笑い、蓬星に腕をからませる。

 蓬星は腕を振りほどき、彼女に冷淡なまなざしを向ける。
 瑚桃はひるんだ。が、踏みとどまるように言う。
「蓬星さん、先輩と付き合ってるって嘘ですよね?」
「本当だよ。あなたには失望した」
 蓬星は足早に立ち去った。
「なによもう!」
 瑚桃はぷうっと頬を膨らませた。



「芦屋さん、ちょっと」
 険しい顔で呼ばれて、初美はたじろいだ。なにかやらかしただろうか。そんな覚えはないのだけど。
 会議室に連れて行かれ、部屋に鍵をかけられる。
 なんで鍵!?
 初美はドアと彼を見比べる。

「混浴露天風呂に行くって本当?」
「行きませんよ」
 驚いて答えると、彼もまた驚いて彼女を見た。
「仁木田さんが、あなたが混浴露天風呂へ行くって……」
「ああ、あれですね」
 瑚桃が渡してきたプリントアウトを思い出す。

「オススメの旅館だっていって、宿を勧められました。調べてみたら混浴露天風呂だったんで、またあの子のいたずらだってわかりましたよ」
 言った直後、抱きしめられた。

「え、あの……」
「行くわけないとは思ったけど、心配した……」
「行きませんよ」
 笑いながら言うと、蓬星はほっとしたように体を離した。
 もしかして、そういうところに行ったら新しい人生の扉が開かれるのだろうか。だけど、それは自分にとっては必要のない扉のように思われた。

「これからは旅行は必ず俺と一緒に行って」
 蓬星が言う。
「……はい」
 必ず二人でということは、もう自由な一人旅はできないということになる。
 それでもいい、と初美は思った。彼と一緒なら、二人でいる不自由さもきっと幸せだ。
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