初めての溺愛は雪の色 ~凍えるため息は湯けむりにほどけて~
 蓬星は川越に電話をかけた。このデータの元を収集したのは彼だ。彼が別でデータを保存していないか確認したかったのだが、電話には出ない。上司である蓬星の権限で川越のパソコンにアクセスするが、そこのデータも削除されたあとだった。

「明日までに必要なデータだったのに。客先にどう説明したらいいか……」
「これ、室長の……ですよね」
 初美は蓬星に確認する。室長はいつもデータを印刷して確認していた。
 蓬星はハッとして初美を見る。視線がぶつかった。

「印刷!」
 二人の声がそろった。

 二人は手分けして探した。蓬星が室長の机を、初美が棚のファイルを。
「見つけた!」
 蓬星が声を上げる。
「……打ち直しましょう。手伝います」
 初美が言う。
「あなたは帰って。あとは俺がやるから」
「私、打つのだけは人より早いんです。それに二人でやったら五十パーセントオフですよ」
 くすり、と蓬星は笑った。

「じゃあ頼むよ」
「任せて」
 初美はファイルを受け取って開き、片っ端から打ち込んでいく。
 二人で打ち込み、気がついた点はついでに直していった。
 基本的には打ち直すだけなので、思ったよりは早く終われた。
 データを送信して、蓬星は息をついた。

「……終わった」
 蓬星の声には安堵があった。
「良かった。お疲れ様です」
 初美はほっと胸をなでおろした。
「あなたがいてくれたおかげだ。ありがとう」
「役に立てて良かったです」
 初美が彼を見ると、彼はちらりと周囲を見渡した。

 あっと思ったときにはもう、唇が重なっていた。
 こんなところで。
 そう思うのに、久しぶりのキスに心は浮き立った。

 彼の侵入を許し、あたたかく初美を確かめる動きに、背筋がぞくぞくする。唇をなめ、歯をなぞり、舌をからめる。彼の動きすべてにとろけそうだった。

「初美さん……いい?」
 なにを?
 思ったときにはもう机に押し倒されていた。
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