この愛が、いつか咲きますように
愛華は顔色を変え、男子生徒の手を引いてすぐに椅子に座らせる。そして流れる血で汚れた足を綺麗にするため、濡らしたタオルで拭いていった。

「血は拭いてから来てほしいって前にも言ったよね?」

手当てをしながら愛華は男子生徒に言う。彼はこの保健室の常連だ。部活の練習や休み時間によく怪我をしてここに来ている。

「先生の仕事が増えたら、一緒にいられる時間が長くなるかなって」

そう言い、男子生徒はヘラリと笑う。その笑顔に悪意などは全くなく、愛華はため息を吐きつつ手当ての続きをする。

男子生徒の名前は小口悠二(こぐちゆうじ)。陸上部に所属している高校二年生である。彼は愛華をよく困らせている。

「先生、好き。結婚しよ?」

沈黙を破るかのように悠二が言う。愛華の手当てをする手がピタリと止まった。悠二は四月に初めて愛華と会った時から、冗談なのか本気なのかわからない告白をする。

「悠二くん、揶揄うのはやめて。好いてくれるのは嬉しいけど、結婚はしません」

「え〜!俺、本気なんだけど!」
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