この愛が、いつか咲きますように
告白を愛華がいつも通り断ると、悠二は頰を膨らませる。愛華はそれを無視して血で汚れたタオルを片付け始めた。

タオルを片付けていると、暇そうに保健室を見回した悠二が「先生」と話しかけてくる。愛華が「何?」と言いながら悠二の方を見ると、彼は愛華のデスクに置かれた本を見て不思議そうな顔をしていた。

「この本のタイトル、何て読むの?斜め?」

「斜めって……。「斜陽(しゃよう)」よ。太宰治の「斜陽」」

太宰治という名前を聞いて、悠二が「その人知ってる!」と子どものように目を輝かせる。有名な文豪だ。読書を普段する習慣がない人でも、一度は聞いたことがある名前だろう。

「国語の教科書で見たことあるよ。えっと、有名な作品は……何とか鉄道の朝だっけ?」

腕を組みながらそう言った悠二に対し、愛華は苦笑いを浮かべる。悠二は読書をあまりしないタイプだとはっきりとわかった。

「もしかして、「銀河鉄道の夜」のことかしら?残念ながらそれは宮沢賢治の作品ね。太宰治の有名作品は「人間失格」や「走れメロス」よ」
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