この愛が、いつか咲きますように
「すみません。ちょっと転んじゃって……」

そう申し訳なさそうに言い、保健室に入って来たのは悠二と同じ陸上部の一年生男子だ。彼の膝は擦りむいて痛々しい傷があるものの、血はそれほど垂れていない。血をある程度拭いて来てくれたようだ。

「消毒するから、そこに座って」

愛華はそう言い、消毒液やガーゼなどを用意して一年生男子のところへ行く。すると一年生男子が言った。

「俺、悠二先輩と同じ部活なんですよ。先輩いつも先生のこと話してますよ。「先生は俺の奥さんになる人だから、惚れたら許さない!」って毎日のように言ってます」

「何それ、そんなこと言ってるの?」

愛華は呆れてしまう。しかし、その口角は何故か上がっていた。それに本人は気付いていない。

手当てをしながら、愛華は一年生男子から悠二のことを色々聞かされた。部活に熱心に取り組んでおり、夏休みに行われた大会では入賞したこと、数学と英語が苦手なこと、文豪の作品を「おすすめ!」と色々な人に紹介していることなど、愛華の知らない悠二のことを聞かされていく。
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