婚約破棄されたので悪女を演じることにしました~濡れ衣を着せられた聖女ですが、すべて捨てて自由になるのでお構いなく~
「……殿下、婚約破棄にいたる理由はわかりました。ですが私たちの婚約は本来、国王直々の勅命で決められたものであり、建国当初から先祖代々伝えられてきた政略結婚です。殿下の一存で決められるものではないとおわかりですか?」

「もちろんだ。勅命の証明書は現在、神殿で作成させている。そしてこれは、国を変える起点となる。大勢の前で宣言しなければ意味がないじゃないか」

「私はこの件について、陛下より何一つお伺いしておりませんが」

「それはそうだろう。父上には話していないのだからな!」

 とんでもないことをさも当然のように言い放った彼は、自慢げに鼻を鳴らす。

 元国王は今、昔から交流のある遠く離れた国の王の結婚式に呼ばれ、他国の視察も兼ねて三ヶ月ほど留守にしている。特にこの国の王族には信頼できる人材が備わっていることもあってか、国王が数ヶ月も空けることはよくある話だった。

 パーティー程度であれば息子に任せても問題ないと思ったのだろう。数年前に王妃が亡くなってからというもの、父子で国を支えてきたが、まさかこんなことになるとは誰も想像できなかったはずだ。

「だが父上はきっとわかってくれる。婚姻は偽りの関係ではなく、本来あるべきお互いの想いを通わせることで成立するものなのだ。部屋にこもりっぱなしの貴様には、到底わからんだろうがな!」

「……そうですか」
< 2 / 16 >

この作品をシェア

pagetop