婚約破棄されたので悪女を演じることにしました~濡れ衣を着せられた聖女ですが、すべて捨てて自由になるのでお構いなく~
私は扇子を手のひらで遊びながら見据える。それが気に食わなかったのか、ライアンは小さく舌打ちをした。
「いい加減、その醜い赤い瞳で私を見るな! 貴様にかかった呪いが、私に移るなんてことがあったら国の一大事だ!」
「瞳の色はコールマン家の人間に現れる特徴の一つです。呪いなどという不可解なものに踊らされる陛下は、相変わらず逃げ腰なのですね」
「なぁ!?」
「あなた……ライアン様になんて口の利き方を! 元婚約者だからって許されませんわ!」
「元ではございません。勅命の証明書がこの場で提示されない限り、殿下の婚約者は私です。ナタリー様こそ無礼ではなくて? この現状、どう収集をつけるおつもりです?」
扇子を手持ち無沙汰に弄びながら問えば、ナタリーは悔しそうに顔をゆがめる。少なくとも自覚はあるらしい。
「貴様、普段からナタリーを傷つけるだけでなく、大勢の前でさえ愚弄する気か!」
「傷つけた?」
「とぼけるな! 貴様はナタリーが城に来るたびに嫌がらせをしていただろう! 侍女たちがその現場を目撃している。さらに私が彼女にプレゼントしたブローチを、その場で踏みつけて壊したことも聞いているぞ!」
「お言葉ですが、私はナタリー様と親しい仲ではございません。言葉を交わした覚えもありません。その代わり、ルイズ男爵とは何度かありますが、すべて城にいらした際にあなたが私に押しつけた仕事の件でお話した程度です。……ああ、そういえば殿下がナタリー様を部屋に連れ込むのは何度か見たことがありますわ。そちらについてはご説明いただけるのかしら?」
私がライアンに押し付けられた仕事をこなしている間、二人が密会していたのは知っていた。
多くの使用人たちに問えば全員が口を閉ざしたが、特別なティーセットに最新のスイーツを用意させていたことや、出入口の警備をしていた騎士たちの頬の緩み具合が目に見えてわかるほどたるんでいたことなど、様子を伺うだけで十分わかった。
私が踏みつぶしたというブローチも、侍女たちが壊れた状態のものを用意し、ナタリーには嘘を伝えたのだろう。
この城内には私を味方するような人はいない。すべてライアンの言いなりだ。
だからこそ、彼の顔が一瞬でも緩んだのを見逃さない。
「婚約期間中に他所の令嬢を部屋に連れ込むなんて、あなたこそ私のことを下に見すぎているのでは? 次期国王が聞いて呆れますわね」
「いい加減、その醜い赤い瞳で私を見るな! 貴様にかかった呪いが、私に移るなんてことがあったら国の一大事だ!」
「瞳の色はコールマン家の人間に現れる特徴の一つです。呪いなどという不可解なものに踊らされる陛下は、相変わらず逃げ腰なのですね」
「なぁ!?」
「あなた……ライアン様になんて口の利き方を! 元婚約者だからって許されませんわ!」
「元ではございません。勅命の証明書がこの場で提示されない限り、殿下の婚約者は私です。ナタリー様こそ無礼ではなくて? この現状、どう収集をつけるおつもりです?」
扇子を手持ち無沙汰に弄びながら問えば、ナタリーは悔しそうに顔をゆがめる。少なくとも自覚はあるらしい。
「貴様、普段からナタリーを傷つけるだけでなく、大勢の前でさえ愚弄する気か!」
「傷つけた?」
「とぼけるな! 貴様はナタリーが城に来るたびに嫌がらせをしていただろう! 侍女たちがその現場を目撃している。さらに私が彼女にプレゼントしたブローチを、その場で踏みつけて壊したことも聞いているぞ!」
「お言葉ですが、私はナタリー様と親しい仲ではございません。言葉を交わした覚えもありません。その代わり、ルイズ男爵とは何度かありますが、すべて城にいらした際にあなたが私に押しつけた仕事の件でお話した程度です。……ああ、そういえば殿下がナタリー様を部屋に連れ込むのは何度か見たことがありますわ。そちらについてはご説明いただけるのかしら?」
私がライアンに押し付けられた仕事をこなしている間、二人が密会していたのは知っていた。
多くの使用人たちに問えば全員が口を閉ざしたが、特別なティーセットに最新のスイーツを用意させていたことや、出入口の警備をしていた騎士たちの頬の緩み具合が目に見えてわかるほどたるんでいたことなど、様子を伺うだけで十分わかった。
私が踏みつぶしたというブローチも、侍女たちが壊れた状態のものを用意し、ナタリーには嘘を伝えたのだろう。
この城内には私を味方するような人はいない。すべてライアンの言いなりだ。
だからこそ、彼の顔が一瞬でも緩んだのを見逃さない。
「婚約期間中に他所の令嬢を部屋に連れ込むなんて、あなたこそ私のことを下に見すぎているのでは? 次期国王が聞いて呆れますわね」