婚約破棄されたので悪女を演じることにしました~濡れ衣を着せられた聖女ですが、すべて捨てて自由になるのでお構いなく~
「黙れ! この……聖女ふぜいが!」
「ふぜい、ですか……確かにそう言われても仕方がありません。なんせ『聖女』は、あなた方が勝手につけた名称ですもの」
この国には、ある伝承がある。
数千年も昔のこと、災いをもたらす者が国を襲い領地を占領する大きな戦があった。立ち上がった勇者と司祭が力を合わせて封印し、平穏を取り戻したという、どこにでもある話だ。
のちに勇者は国王となり、司祭は娘を妃として国を繁栄していった。
特に妃になった娘は聖女と呼ばれ、その高い治癒能力に多くの国民が救われていた。
その二人の子孫がウィルメント王族と、コールマン侯爵家である。
特にコールマンの血には聖女の能力が代々伝わっており、今では男女関係なく治癒能力が高い。今も王族との関わりがあるのはこれが原因なのだ。
治癒能力が高い――つまり、戦場では必ず役立つ。死にかけた騎士たちの傷をいち早く治し、死者をひとりも出すことなく無事に帰還させる。それが聖女に課せられた使命だという。
「ならば聖女の仕事をしたらどうだ! 貴様のせいで何人ものの騎士たちが血を流した。すぐに治療すれば間に合った者だっていたんだ! それをなんだ、貴様はいつも『回復術師を多く連れていけ、命は第一優先に』? だから怠惰の聖女などと、不名誉な名がつけられるのだ! 貴様は自分の行いを恥じるべきだ!」