婚約破棄されたので悪女を演じることにしました~濡れ衣を着せられた聖女ですが、すべて捨てて自由になるのでお構いなく~
『怠惰の聖女エマリネ』――戦場に赴くことなく、城でただ優雅に茶を嗜んでいるだけの名ばかりの聖女。ライアンによって広められた私の異名。嘘と本当が混ざった話を王太子自身が話すことは、周囲の人間や環境に大きく影響を与えた。
以来、王家の侍女たちは支度を手伝わなくなるどころか、部屋にも訪れなくなった。毎朝、冷たい水の入った桶を乱雑に置きにくるだけましだったし、食事は痛み始めた食材を使った料理が部屋の前に放置される毎日。
中には私が不在のときを見計らって部屋に侵入し、アクセサリーを盗む者まで現れた。最終的に質屋で売ったと喋ったが、たいした金額にならなかったという。それもそうだ、見越してわざと偽物のアクセサリーや宝石を置いているのだ。噂が出回るよりも以前――ここに淑女教育のために王城内の一室を借りた日から、私は自分の身を守ってきたのだ。
そんなことなど、この場にいる王族貴族、使用人たちは知るはずもない。
言い返さない私に気分を良くしたのか、ライアンはべらべらとあることないことを公の場で話し出す。
「国民への治癒活動だって、表の顔を取り繕っているだけだ。こいつは公務だけは辛うじて参加しているが、今まで国ために貢献したことは何一つもない! 反論ができないのがその証拠だろう!」
「……わかりました。もう結構です」
ぱしんと手元で遊ばせていた扇子を手のひらに勢いよく叩きつける。その音にライアンとナタリーはびくりと肩を震わせたのが見えた。よほど不機嫌に見えたのだろう。
これ以上の対話は無駄だ。……いや、最初からそうだったか。
私はドレスの裾を持ち、慣れた手つきでカーテシーを行う。ふいに誰かの息を呑む音が聞こえた気がした。
「婚約破棄の件、承りました。聖女の座も返還いたします」
以来、王家の侍女たちは支度を手伝わなくなるどころか、部屋にも訪れなくなった。毎朝、冷たい水の入った桶を乱雑に置きにくるだけましだったし、食事は痛み始めた食材を使った料理が部屋の前に放置される毎日。
中には私が不在のときを見計らって部屋に侵入し、アクセサリーを盗む者まで現れた。最終的に質屋で売ったと喋ったが、たいした金額にならなかったという。それもそうだ、見越してわざと偽物のアクセサリーや宝石を置いているのだ。噂が出回るよりも以前――ここに淑女教育のために王城内の一室を借りた日から、私は自分の身を守ってきたのだ。
そんなことなど、この場にいる王族貴族、使用人たちは知るはずもない。
言い返さない私に気分を良くしたのか、ライアンはべらべらとあることないことを公の場で話し出す。
「国民への治癒活動だって、表の顔を取り繕っているだけだ。こいつは公務だけは辛うじて参加しているが、今まで国ために貢献したことは何一つもない! 反論ができないのがその証拠だろう!」
「……わかりました。もう結構です」
ぱしんと手元で遊ばせていた扇子を手のひらに勢いよく叩きつける。その音にライアンとナタリーはびくりと肩を震わせたのが見えた。よほど不機嫌に見えたのだろう。
これ以上の対話は無駄だ。……いや、最初からそうだったか。
私はドレスの裾を持ち、慣れた手つきでカーテシーを行う。ふいに誰かの息を呑む音が聞こえた気がした。
「婚約破棄の件、承りました。聖女の座も返還いたします」