身代わり娘の逃走計画
身代わりになった日
扉が乱暴な音を立てて開かれた。
「暁燕、莉山を見ていないか!?」
軋む蝶番を無視して、部屋中を虚しく駆け巡る焦った大声。
誓って私がそうしたわけじゃない。正確に説明するならば、旦那様が大慌てで走ってきて、私たち使用人が居室として使う予定の部屋に飛び込んでの発言だった。
その時、他の使用人たちは仕入れやら品出しやらで出払っていて、私はこの居室の掃除を任されていた。窓を開け箒で床を掃きながら、やってきたばかりのこの国──彗ノ国について考えながら。
そこにドカドカ、あるいはドタドタという足音が近づいてきたと思ったら、えんじ色の扉がドカンと、あるいはバタンと勢いよく開かれ、真っ青な顔をした旦那様がこれまた勢いよく、お嬢様の行方を訊ねられた──というわけである。
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