身代わり娘の逃走計画

「……何故、羅紗を被っておる?」


 抑揚のない、冷たい声が上から降ってきた。なるほど、肉親を処してしまったというのも理解できる。そんな酷薄さが表れている声だった。


「……髪を、焦がしてしまったのです」

「髪を」

「はい、料理をしておりましたら、髪に火が燃え移ってしまい……咄嗟に水を被ったのですが、とても人前で見せられるような姿ではございません」

「ふむ……」

「男のように短くしてしまいましたので、恥ずかしく……羅紗を被ったまま御目通りする無礼を、どうかお許しください」


 できる限り奥ゆかしく、淑やかに訴えてみたは良いが、国主様は沈黙を返すだけだった。

 自分の心臓の音だけが聞こえる。隣りで旦那様が身を硬くしているのだけはわかった。


「許す」


 低い声が、その短い単語を言い放った瞬間、私は力が抜けて崩れそうになるのなんとか耐えた。

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