身代わり娘の逃走計画
役人に連れてこられた部屋を見て、私は危うく目を回しそうになった。
まず広い、広すぎて身の置き場がない。侍女たちが常時控えているからそのためなのだろうけど、広すぎて怖い。
その侍女たちの衣服だって煌びやかだ。紹介されなければ国主様の妃たちだと勘違いしていただろう。ちなみに、役人曰く今の国主様に正妻はいないので皆してどうにか結婚させようと悩んでいるのだとか。
家具だの調度品だのも、どれもこれもが美しい細工を施されていて、触れたら壊してしまいそうでこれも怖い。いやちょっとやそっとじゃ壊れないことぐらいは頭ではわかっているのだけれど。
寝台に敷かれた錦にも繊細な刺繍が施されていて、彗ノ国にはきっと腕利きの職人が大勢いるのだろうと誰もが思うだろう。そう言えば、旦那様は彗ノ国は織物の名産地だと教えてくれたっけ。
寝台に取り付けられた天蓋も滑らかで柔らかそうだった。極細の糸で織られたのだろうその布に、光が差したらさぞ美しいだろう。
さっきまで首筋に刃を当てられていたような心地だったのが、今ではもうすっかり浮かれている。いけないいけない。まだ私の命は危ないのだから。
後宮の役人もちょっと呆れ気味に咳払いをして、「他に御入用の物はございませんか?」と訊ねてきた。
「裁縫用具を一式、それから余った布地をいただきたく」
「承知いたしました」
役人が疑問を挟まずに私の要求を受け入れてくれたことにホッとして、窓の外をなんとなしに見やった。日の光が空高くから降り注いで、もう昼なのかと面食らった。