身代わり娘の逃走計画
昼食は、まぁ豪華だった。噂でしか聞いたことのない珍味が並び、侍女たちに給仕されるまま口に運んだ。美味しいことは美味しい。でもなんだか、市場で叩き売られていた果実を口にした時のことを思い出して、旦那様やお嬢様、同僚の使用人たちが恋しくなった。
お嬢様、今頃どうしてるかな……無事に故郷に帰って、好きあった方と幸せになっていれば良いけど……。
でも、とふと目の前の光景を見て思う。
もし私がお嬢様なら、こんな贅沢な暮らしができるほうを選ぶ。絶対に。
……全てを捨ててしまえるほどの恋を、したことのない私が考えても仕方のないことだけど。
大して難しい要求ではなかったことから、昼食のすぐ後に望み通りの品々は手に入った。しめしめ、ちゃんと鋏もある。
私の企みなど噯気にも出さず、私は侍女たちと共に裁縫や刺繍を楽しんだ。行商の使用人として働いていた頃は、よく皆の服を繕ったり刺繍をしたりしていたからこれでも腕に少しは自信がある。
とにかく、とにかく溶け込む振りをしなければ。