身代わり娘の逃走計画
昼食と同じくらい目にも鮮やかな夕食を楽しむと、「入浴の準備が整っております」と侍女に声をかけられた。
「わかった、場所を教えて? 入ってきちゃうから」
「莉山様、お恥ずかしいのは私共も理解しております。ですがそうは参りません」
私はずっと被ったままの羅紗をギュッと握った。
「いえその……ほら、家では一人だったし」
「ここは後宮です」
「本当に見るに堪えない姿で……」
「事情はうかがっております」
「せめて羅紗は被ったまま……」
「なりません!」
……こうして私は問答無用で浴場へと連行され、それこそ口にできないようなところまで丹念に洗われた。「いつお声がかけられても良いように」じゃない。そんな日は永遠に来ない。
心身共にぐったりとしてしまったが、後はもう寝るだけだったのが唯一の救いだった。いや待てよ? これ私が逃げるまで続くの?
早々に逃げなくては。
私は広すぎる寝台に横たわりながら決意を新たにした。部屋では香炉を使ったのか、甘くて深い香りが漂い、目蓋が勝手に下りてこようとする。
それをどうにかして押し上げ、侍女たちが部屋の隅で寝静まるのを待った。彼女たちを起こさないよう少しずつ身体を寝台の外へと出して、近くに置かれた行燈を手に鏡台へと向かう。
ほんのりとした明るさを頼りに、私は何気なくを装って置いたままの裁縫箱から鋏を取り出して、ほんの少しだけ髪を切った。
そうして高鳴る心臓を押さえて、侍女たちが身じろぎでもしないか不安になりながら寝台に戻った。短いままであれば、国主様に会わなくてもすむ。でも限度というものがあるのはわかっている……。
──半年、くらいかなぁ。
私はそんなことを考えながら、ようやく眠りについた。