身代わり娘の逃走計画
春堅
この後宮にやってきてからというもの、私は数週間置きに侍女たちから贈られた鬘を身につけて外に出ては様子を探っていた。
「羅紗よりは気分が楽でしょう」と気づかってくれる彼女たちに罪悪感を覚えつつ、それはそれとしてありがたく使わせてもらうことにする。
余った生地で作った服は地味で、ちょっと見ただけならただの下働きだと思うだろう。
侍女たちに珍しい布地を買いに行ってきてくれと追い出す口実を作るのもそろそろ限界だ。今日こそ帰ってくるまでにこの御殿を全て調べる必要があった、がしかし。
──広すぎてどうしよう。
あちこち見て回ったは良いが、本当に広い。出口らしい場所には門番が必ず目を光らせているし、塀は聳え立ち侵入者も脱走者も許してくれそうにない。
その上歩いても歩いても違う場所に出てしまう。これは厨房辺りの人たちと仲良くなるかして、隙をついて業者の荷物にでも紛れて脱出するしか……。
悶々と悩みながら額ににじむ汗を拭う。空は嫌味なくらい晴れわたって、真上から私や建物を日光が照らす。暑い。そろそろ帰ったほうがいいかも。暑い。
ここはどれだけ広いのかと八つ当たりをしたくなっていたその時だった。