身代わり娘の逃走計画
「見ない顔だが……こないだ後宮に入ってきた奴に連れてこられたのか?」
「ええ、そうよ。暁燕というの」
男が勝手に勘違いしてくれた。これは好都合……だけど、名前まで教える必要はなかったかも。
「暁燕か、俺は春堅だ」
私はそこで、初めて男の顔を見た。膝と同じく日に焼けた顔に、快活そうな表情が乗っかっている。
春堅の服装は高官が着るような豪奢なものではなく、上衣に帯、内衣と簡素なものだ。兵装もしていないし、宮殿の下働きだろうか。
「春堅はここ、長いの?」
「そうだな、赤ん坊の頃からここだ」
ということは、家族ぐるみで働いている? 父親や母親の代から店で働いている人と話したことがあるし、春堅もたぶんその類いだろう。
……これは、危機ではなく機会かもしれない。
私はほくそ笑んだ。
こいつと仲良くなって、裏口とか秘密の抜け道を聞き出せれば万々歳だ。