身代わり娘の逃走計画
それから私たちは池から足を抜いて、手近な木陰に腰を落ち着けた。私は今まで巡った国について、思い出せるだけ春堅に話して聞かせ、彼を楽しませるのに専念した。
行商の皆と食べた食事、盗賊や野良狼を倒してくれた用心棒、抜け目のない他の商人たち、その土地だけのお祭り──。
春堅は私の話に深く聞き入り、時には大笑いし、時には涙ぐみ、時には手に汗を握って続きを促してきた。子どものようでかわいいと思ってしまったのは内緒だ。
楽しい思い出も苦い思い出も、全てが目蓋の裏に焼き付いている。それが話せば話すほど蘇ってきて、昨日のことのように思い出せる。
……だから、目が潤むのも、鼻の奥がツンとするのも仕方のないことだ。そう自分に言い訳した。
「ああ、すまん、すまん。泣かせたいわけじゃなかったんだ」
春堅は私の背中を撫でさすって、肩を抱き寄せてくれた。土と太陽の匂いに、私の涙腺はもう持ちそうになくて、思わずワッと泣きついてしまった。
ずっと気を張って過ごしてきた。バレたら一巻の終わり。旦那様たちに累が及ぶ。そう考えたらろくに眠れなかった。
こっそりと髪を切っても、どうしたって限度というものがある。不審そうな顔をした役人に「まさか呪術でも……」とボソッと呟かれたのは記憶に新しい。
何より、旦那様に啖呵を切っておいてこの体たらく。
……情けないことこの上ない。