身代わり娘の逃走計画
私はその問いに、「朝、お庭にいらっしゃるのを見かけたきりです」と応えさらに「近くを探してきます」と旦那様に申し出た。一人娘でもあるお嬢様が──考えたくもないけれど──もし誘拐でもされたのだとしたら、他の使用人たちにも応援を頼まないと。
ところが旦那様は首をゆるゆると振りながら、ゆっくりとその場に崩れ落ちた。片手で目元を覆って肩を震わせている。
「旦那様……?」
私は慌てて旦那様の元に駆け寄り、その背中をさすった。すぐにでも捜索の指示を出されるかと思ったのに、力無くうずくまって何事かうめいている。
──これはただごとじゃない。もっと深い事情がある。
「ああ……おしまいだ……儂らはもう……」
「旦那様、どうか落ち着いてください」
「莉山、莉山や……なぜ……」
「……お嬢様の身に、何か起こったのですか?」
「違う、違う……これからだ……」