身代わり娘の逃走計画

 考えがまとまらないまま、俯いて静々と歩む。国主様の視線が遠くからでもヒシヒシと感じる。怖い。怖くてたまらない。

 それでも足を止められなくて、国主様の組んだ足が見えるところまで辿り着いてから膝を付き、祈るように沙汰を待った。


「本当に全く伸びておらぬな」

「申し訳ございません」


 ここからでもわかるくらい、大げさなため息が聞こえた。その音にさえ肩がビクッと跳ねた。


「もう良い。お前の髪が伸びぬなら、お前が連れてきた侍女を寄越せ」

「っ、どうして、それを……!」


 春堅しか知らないはずの情報を、どうして国主様が知っている?


「否やと申すか、ではお前に呪いをかけた妃を探すことにしよう」

「お待ちください!」


 止めようと立ち上がった瞬間、薄布が顔を滑って落ちていった。

 その場の時間が、全て静止したような感覚に陥る。

 昨日、水辺で出会った顔と同じ顔が、ポカンと間抜けヅラでこっちを見ていた。

 私も似たような表情になっているのだろうな、と頭の片隅で思った。
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