身代わり娘の逃走計画
私は旦那様からもっと詳しい話を聞き出そうと辛抱強く背中をさすり、声をかけ続けた。どうにかこうにか椅子に座らせると、私は卓の反対側に座って旦那様が落ち着くのを待った。
茫然自失としている旦那様から状況を説明してもらうのは骨が折れたが、聞き取った単語を繋ぎ合わせると、とんでもない事情が浮かび上がってきた。
旦那様曰く、この彗ノ国にやってきたその日に、お嬢様はお忍びで街を見て回っていた国主様に見初められたのだという。
国主様はこっそりと使いを出して、お嬢様を後宮に迎え入れたいと交渉した。本物の国主かと疑う旦那様に、これでもかと金銀財宝や美しい織物を渡し、「これは前金だ」と迫ったらしい。
旦那様は旦那様で、お嬢様にちょうどいい婿をと思っていたところだったので、国主様からの申し出を一も二もなく大喜びで受けてしまった。国主様の後宮であれば、少なくとも飢えたりはしないだろうという親心だった。
ところがお嬢様からすればそうはいかない。お嬢様には故郷に将来を誓い合った相手がいて、その人のことを忘れた日など一日もなかった。泣いて嫌がるお嬢様を、旦那様は宥めすかして説得にあたった。