身代わり娘の逃走計画
旦那様の真摯な説得に、お嬢様も心を動かされたらしく、最後には泣くのを止めてただただ聞き入っていた──ということらしいが、お嬢様はもうこの時点で決意を固めてしまわれたのだろう、と思う。
「……故郷に向かわれたのですね」
旦那様は両手で顔を押さえてうめいた。
「……今から追いかけても、約束した明日の朝まで間に合わん」
「彗の国主様は、本当にそのような恐ろしい方なのですか?」
私が暗に、「正直に全てを打ち明けて前金も返せば許してくれるんじゃないか」と提案すると、旦那様はがっくりと項垂れるように頷いた。
「董霞様は味方にはそれはそれは寛容だが、自分に害を為すと判ずればどこまでも冷酷になれる」
「噂なのでしょう? きっと大きな尾ひれがつけられて──」
「自身を暗殺しようとした罪で、兄弟親戚を処刑した方だ」