魔女ごときが魔王様をダマせるはずがない
「やだ、怖―い!」
イーダは半べそになりながら箒の姿勢を水平に戻し、それでも飛び続けた。
皮肉なことに、魔王の体重分だけ重くなったお陰で箒の速度が落ち、操縦しやすくなっていた。
魔王とふたり乗りしているこの状況は恐怖でしかないけれど、正直なところその点では助かった。
「怖いのは君のほうなんだけど? 危ないから、城の中を飛び回らないでくれるかな?」
「だけど、外に出られないから!」
「『外』って?」
「『外』は外ですよ!」
「具体的にどこを指してる?」
「『どこを』って……建物の中じゃなくて、普通に空を!」
「空を飛びたい?」
「そうです!」
「なら、そう言って。ほら」
「へっ? 空を飛びたい……です?」
「僕も一緒に?」
「ええっ?」
「『ええ』、イエスってことね。了解。対価はあとで請求するよ」
「えっ、ち、ちょっと! やだっ、今のはなしで!」
「ざーんねん、もう遅いよ」