魔女ごときが魔王様をダマせるはずがない

 魔王が楽しそうにそう言った次の瞬間には、イーダは星空の中にいた。

「わーっ!」

 そのとき俄かに、箒が重さに耐えかねて落下し始めた。

「きゃあああーー!」

(あれっ!? 見慣れた風景……)

 足下に広がるのはノールブルク領だった。魔女の集落も見える。

「おおっと、緊急事態だから失礼するね」

 魔王は背中からイーダに覆いかぶさった。そして、イーダが握っているよりも向こう側の箒の柄を握った。

 すると箒は浮力を取り戻した。

「び、びっくりした……」

 イーダの心臓はバクバクしていた。

(これは落下しそうになったから! 絶対に魔王様にトキめいてるとかじゃなくて!)

「そっか、魔界と人間界では吸収できる魔力量が異なるんだね」

「ええっ? どういうことですか?」

「どういうって……魔女は、魔族が作る魔力のおこぼれを吸収して使ってるよね?」

「そうなんですか?」

「知らなかったの?」

「はい、たぶん魔女は誰もそんなこと知らないと思います。でも……」
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