魔女ごときが魔王様をダマせるはずがない
初めて聞いた話だったが、腑に落ちた。
魔王城ででたらめな速度が出た謎が解けた。
(あれ? そういえば魔王様と普通に話せてる。ひょっとしてもう怒ってない?)
謝るなら今だと、直感が教えてきた。
「あの……名前を偽ったこと、ごめんなさい! これには事情がありまして……」
「事情?」
「はい。それで図々しいのは承知なんですが、特効薬は作ってほしいかなーなんて……」
「特効薬は作るよ」
「本当ですか!?」
「うん。侍従長も人間界に知り合いがいて、心配してるしね。でも、続きを聞くのは魔王城に戻ったあとでもいい? 今は空を飛ぶことに集中したいから」
魔王は星空を見上げた。心を奪われたように……
「もちろんです!」
(やった、やった!)
「それにしても、箒で飛ぼうっていう魔女の発想は面白いね」
「魔王様は飛ばないんですか?」
「飛ぶけど、僕らは道具は使わない。そのまま体を浮かす」
「へえ、そんなことができるんですね……はっ! そういえば私が魔女ってこと、魔王様は……」
「知ってるよ!」
魔王は噴き出した。