魔女ごときが魔王様をダマせるはずがない

 魔王は箒の柄を握っていた手の片方を離し、イーダの髪に触れた。

「ところで、髪はどうしてこんな妙なことを?」

 魔王が呪文を唱えるとウィッグとウィッグネットが消え、不揃いでみっともないショートヘアが露わになった。

「ウィッグって気づいてたんですね……」

「そりゃ見れば分かるよね?」

「えっ、分かります?」

「そっか、人間の目は表面しか見えないんだったね。僕ら魔族の目は違うんだ。魔力が強ければ強いほど、目で色んなものが見えるよ。だから、せっかくウィッグをかぶってもらったところ悪いんだけど、僕の前では意味ないんだ」

「じゃあ、こんな変装、端から無駄だったってことですか……」

 イーダから『ははっ』と乾いた笑いが漏れた。

「変装?」

「そうです。オリーヴィア王女殿下の……」

「ああ、婚姻の儀式で名乗った名前か」

「だったら髪、切られたくなかったな」
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