魔女ごときが魔王様をダマせるはずがない

 髪を切られたときの嫌な音がもう1度聞こえてきた気がして、鼻の奥がツンとした。

「元の長さまで伸ばしてあげるよ」

 イーダが『えっ?』と聞き返したときには、ネイビーブルーの髪が肩から背中にかけて垂れ落ちた。

「嘘!?」

 今度はうれしくて視界が霞んだ。

「もうひとつお願いを叶えてもらっちゃった。お願いふたつ分の対価を払わないといけないですね、へへっ」

「ううん、これはいいよ。僕もこっちの髪のほうが断然好きだから」

 魔王があまりに優しく微笑むから、イーダはその笑顔につい見惚れてしまった。

 そのまま目が離せないでいると、魔王の笑顔は真剣な表情に変わった。

 イーダの顎にそうっと触れ、優しい力で上を向かせた。

 イーダはそうすることがごく自然に思えて、されるがままに顔を動かした。

「お願いひとつ分だけ対価をもらおうかな」

 そうして魔王は、イーダの唇をかすめ取った。

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