魔女ごときが魔王様をダマせるはずがない
本当のところは花嫁の部屋を用意したときに、夫婦の寝室も作ってしまっていた。
けれど、イーダを帰すとソフィーと約束した。帰すならばむろん傷ものになどさせられない。
(この一線だけは何があろうと固守しなければいけません)
けれど、魔王は寝室問題など微塵も頭になかったようで、虚をつかれたように『えっ』と固まって、首から顔まで順々に赤くした。
イーダもついでに赤くなった。やはり息がぴったりだ。
(奥手な魔王様には杞憂でしたか……)
魔族なら年齢も性別も関係なく、いくらでもお手付きできる立場なのに、それを全くしてこなかった方だ。
強引に花嫁にすると決めた娘を、召喚した初日に……などと要らぬ心配だった。
「あのう、それでよろしいですよね?」
「あ、ああ、もちろん」
魔王は振り返りもせずに『じゃあ』と手だけ上げて、足早に引き上げていった。
右手と右足が同時に出ていたことには気がつかないふりをした。