魔女ごときが魔王様をダマせるはずがない

 侍従長は魔王を見送ったあとで、イーダに向き直った。

「それでは、魔女様もこちらへどうぞ」

 イーダは『えっ』と驚いた。

 侍従長はにっこり微笑んだ。

「魔王城の中を箒で飛ぶのはお止めくださいね」

「あっ、あの残像のひとつにラーシュさんもいたんですね」

「残像とは……?」

「な、何でもないです。とにかく、だからラーシュさんも私が魔女って知ってるんですね」

 侍従長は、それ以前から知っていることは黙っておくことにした。

 代わりに『はははっ』と軽く笑ってこう言った。

「何なら魔王城の全員に知れ渡りましたよ」

 イーダは『ひゃー』と恥ずかしそうに小さく叫んだ。

「ごめんなさい。あのときは慌ててしまって……」


 イーダを部屋に通したところで、侍従長は本題に入ることにした。

「それで、魔女様はどうして第一王女の替え玉をされていたのですか?」

「あれ? 儀式の間は防音なんじゃ……でも、聞こえてたんですね」

 これも聞こえたわけではない。元々イーダの素性を知っていただけだ。
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