魔女ごときが魔王様をダマせるはずがない
魔王は居心地の悪さを感じた。
侍従長が昨夜の出来事(つまり対価と称して王女に口付けしたこと……)を知るはずがないのに、余計なことまで見透かされている気がしたのだ。
(でも、これはきっとあれだ。後ろめたい気持ちがあるから、疑心暗鬼になるやつだ)
「あー、まずはその疫病とマルスドッテル王国の状況について王女から話を聞きたい。応接間に呼んでくれるか?」
「かしこまりました」
王女を呼びに行く侍従長の足取りは軽い。
侍従長は当初、王女を花嫁にすることにいい顔をしていなかったはずだ。
それなのに、今ではどうだ。
いざ会ってみたら好印象をもったに違いない。
侍従長がどう思おうが関係ないのだが、歓迎してもらえるほうが望ましい。
(あとは肝心の王女の気持ちだ)
魔王は口を引き結んで、王女を待った。