魔女ごときが魔王様をダマせるはずがない
「おはようございます……」
侍従長が事前に用意していたのだろう。
王女は昨日とは一変して、黒いドレスを着て現れた。
(どちらもいいが、黒のほうが王女に似合うと思うし、もっとはっきりいうと僕は好きだなー)
侍従長から聞いていた通り寝不足なのか、心なしか顔色が白い。
しかし魔王をチラッと見た途端、その頬だけ赤みが差した。
(ひょっとして、僕のことを意識してる?)
せっかく引き締めた心がふわっと浮上し始めて、慌てて引っ張って沈めた。
魔王はさも落ち着き払った振りをして、差し向かいに座らせた王女から聞き取りをおこなった。斑紋死病の症状やそれが流行っているという王都の状況、それから魔女が薬を作っていることも──
「ふーん。となると、今回、僕が特効薬を作って感染者を治したところで、数十年後にはまた大流行する可能性が十分あり得るってことだよね」
「そういうことになると思います」
「なら、今回だけ解決してもって気がするなー」
「そんな……!」
「あっ、そういう意味じゃないんだ」