魔女ごときが魔王様をダマせるはずがない
(あー、でも違うかも……?)
口づけされたから恋に落ちたのではないと思う。あのときにはすでに魔王様に恋をしていた。
その前だ。
なら、いつだったのだろう……
(ひと目惚れだった? それともその直後のギャップにやられた?)
自分の気持ちなのに分からない。
分かるのは、今感じている胸の痛みだけだ。
自分はこれから魔王を裏切る。そして魔王は第一王女殿下と結婚する──
(だけど、魔王様に恋をしてまだ2日目じゃないの。たった2日間だけの恋なんて、麻疹のようになんてなりようがない。ひき始めで治ってしまう風邪みたいなものでしょ。元の生活に戻ればすぐに忘れちゃうはず……)
イーダは自分に言い聞かせ、それから魔王に願った。
「魔王様、私と一緒に人間界に行って、国王陛下の願いを叶えてください」
知らず、『私と一緒に』の箇所だけ力が入った。