魔女ごときが魔王様をダマせるはずがない

(あー、でも違うかも……?)

 口づけされたから恋に落ちたのではないと思う。あのときにはすでに魔王様に恋をしていた。

 その前だ。

 なら、いつだったのだろう……

(ひと目惚れだった? それともその直後のギャップにやられた?)

 自分の気持ちなのに分からない。

 分かるのは、今感じている胸の痛みだけだ。

 自分はこれから魔王を裏切る。そして魔王は第一王女殿下と結婚する──

(だけど、魔王様に恋をしてまだ2日目じゃないの。たった2日間だけの恋なんて、麻疹のようになんてなりようがない。ひき始めで治ってしまう風邪みたいなものでしょ。元の生活に戻ればすぐに忘れちゃうはず……)

 イーダは自分に言い聞かせ、それから魔王に願った。

「魔王様、私と一緒に人間界に行って、国王陛下の願いを叶えてください」

 知らず、『私と一緒に』の箇所だけ力が入った。
< 132 / 227 >

この作品をシェア

pagetop