魔女ごときが魔王様をダマせるはずがない
「えっ、どうして!?」
声のしたほうに視線をやると、イーダの母のひとりであるシリエが、持っていた洗濯かごを落としたところだった。
洗濯かごと山盛りになっていた洗濯物は地面で鈍く跳ねた。
シリエは振り返って空気を振動させ、集落中に声を轟かせた。
「みんな来てちょうだい! 奇跡よ、奇跡が起きたわ!」
魔王は『魔法をそういう使い方するんだ』と感心したように呟いた。
シリエはイーダに向かって駆けてきて、イーダのことをありったけの力で抱き締めた。
「二度と会えないんじゃないかと……!」
イーダの髪がシリエの涙で濡れた。
シリエの声を聞いた魔女たちが続々と建物から出てきた。
「本当に!?」
「幻じゃなくて?」
「生きてた!」