魔女ごときが魔王様をダマせるはずがない

「えっ、どうして!?」

 声のしたほうに視線をやると、イーダの母のひとりであるシリエが、持っていた洗濯かごを落としたところだった。

 洗濯かごと山盛りになっていた洗濯物は地面で鈍く跳ねた。

 シリエは振り返って空気を振動させ、集落中に声を轟かせた。

「みんな来てちょうだい! 奇跡よ、奇跡が起きたわ!」

 魔王は『魔法をそういう使い方するんだ』と感心したように呟いた。

 シリエはイーダに向かって駆けてきて、イーダのことをありったけの力で抱き締めた。

「二度と会えないんじゃないかと……!」

 イーダの髪がシリエの涙で濡れた。

 シリエの声を聞いた魔女たちが続々と建物から出てきた。

「本当に!?」

「幻じゃなくて?」

「生きてた!」
< 134 / 227 >

この作品をシェア

pagetop