魔女ごときが魔王様をダマせるはずがない
「あたし、飛んでる!」
魔女なら誰もが経験した第一歩だ。それでも、イーダは感謝の気持ちでいっぱいになった。
「妹のためにありがとうございます!」
「こんなことくらい」
妹は箒に乗ったまま、ぐるっと一周して戻ってきた。
「魔王様、ありがとう。飛べるようにしてくれたから、あたしも魔王様と結婚してあげる!」
イーダは絶句して、魔王を凝視した。
「えっ、いや、僕はもうお嫁さんを決めてるから」
魔王は横目でイーダを見て、必死に首を横に振った。
「あっ、何だ。魔王様からこの子にそういう対価を要求したわけじゃないんですね?」
「当たり前だろ? ちょっと遊んであげたぐらいで対価なんて、僕はもらわないよ!」
「えーっ、あたしも魔王様のお嫁さんになりたーい!」
「うわっ、困ったな……お嫁さんはひとりでいいんだ」
イーダはクスクス笑っていると、目尻がにじんできた。
(魔王様の花嫁はひとりでいい。そしてそれは私じゃなくて、オリーヴィア王女殿下なんだ……)