魔女ごときが魔王様をダマせるはずがない
「依頼された特効薬を届けに来たというのに、とんでもない歓迎だな」
剣を構えた親衛隊を横目で見た魔王は、ひと言だけ呟いた。
すると、剣身がドロドロに溶けて床に垂れ落ちた。
「うわっ!」
親衛隊は握っていた柄を放り捨てた。
(これって魔王様がやったの?)
魔王は涼しい顔で、もうひと言呟いた。
すると親衛隊はひとり残らず膝を屈した。
「う、動けない……」
「この力は?」
魔王は国王に視線を戻した。
国王は愕然とした表情を浮かべていた。
「あっ、ま、まさか……」
唇が小刻みに震えている。
「どうも。この度ご依頼をいただきました魔王です」
魔王は今さら無駄だろうに、人畜無害そうな笑顔で名乗った。
(この場面でその笑顔は逆に恐怖だと思うんだけど……)
それでも、イーダに限ればそれは見知った笑顔で、ほっとしている自分がいることに気づいた。
「特効薬を持ってきました」
魔王は国王の眼前に瓶を突き出した。