魔女ごときが魔王様をダマせるはずがない
イーダは大きく息を吐いた。
(気分転換してこよう。天気もいいし、もう一度庭園を散歩しようかな……)
ベッドからゆっくり立ち上がり、クッションを元の位置に戻すと、部屋を出ようとドアを開けた。
その瞬間、クロスした2本の槍によって阻まれた。
「えっ?」
イーダは突然のことに頭が真っ白になってしまった。真鍮製のドアノブを握ったまま、動くことができない。
「部屋にお戻りください」
「ええっと、どういうことですか?」
「『部屋にお戻りください』と申し上げました」
昨日は向けられることのなかった視線だった。
けれど既視感はあった。
魔女の集落からここに連れてこられてきたときに向けられた視線だ。侮蔑の視線……
どうにか後ずさりして静かにドアを閉めた。