魔女ごときが魔王様をダマせるはずがない
(この話長くなるのか? もう帰りたいんだけどな……)
国王から特効薬が効いたことの報告をもらった。
(なら、この瞬間にでも魔界に引き上げてしまって構わないよな? 礼儀なんてどうだっていい)
しかし、『オリーヴィア』という名前には聞き覚えがあった。
魔王はオリーヴィアにちらりと視線をやった。
「オリーヴィアは我がマルスドッテル王国の第一王女であり、本来であれば魔王様に嫁ぐはずでした」
(ああ、そうだ。婚姻の儀式のときに聞いた名前だったか)
その名前のせいで儀式が中断したのだ。全くもっていい思い出ではない。
魔王は鼻に皺を寄せた。
「ですが、オリーヴィアは斑紋死病を患って臥せっておりました。そこであの魔女が、自分なら『オリーヴィアのフリができる』と言い出しまして……ああ、もちろん私が浅慮だったことは重々承知しています」
(何だ、これ。魔王であるこの僕が、こんな白々しい嘘も見抜けないと思われてるのか?)