魔女ごときが魔王様をダマせるはずがない

 魔王はイーダの手を取った。

「あっ……私は人間界に残って、大魔女と話がしたいです。私の実の母親なのか、大魔女の口から聞きたくて。だから、魔王様は先に帰っててもらえませんか?」

 咄嗟について出てきたが、決して出まかせではなかった。ソフィーと会って話がしたい。

「え……」

 魔王は淋しそうな顔をした。

 けれど、すぐに『わかった』と微笑んでくれた。

「聞きたいこと、しっかり聞いておいで」

 それを聞いて、言い出しっぺのくせに、イーダのほうが魔王以上に淋しくなってしまった。

(私って何て自分勝手なの……)

 イーダの気持ちを知ってか知らずか、そこで魔王が悪戯っぽく笑ってみせた。

「僕は君のお願いなら、どんな小さなことでも聞こうと思うんだ。君からの対価は何度でもほしいから」

 これまでにイーダが魔王に対価を払ったのは1度だけ。

 それは箒の上でのキスだった。
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