魔女ごときが魔王様をダマせるはずがない
(『何度でもほしい』って、あれのこと!?)
思わず両手で口元を隠した。
魔王はそんなイーダの様子を楽しそうに観察し、耳打ちしてきた。
「ここではもらわないよ。僕だって恥ずかしいから、ふたりだけのときにね」
(ち、近っ! 魔王の顔が近い!)
その気になれば、すぐにでもキスができてしまいそうな距離だ。
イーダの顔からは蒸気が立ち上りそうになる。
そのことに魔王は大層満足気だ。
「そうは言っても早く帰ってきてほしいから、集落までは送らせてよ」
魔王とイーダが消える直前、ラーシュも慌ててふたりの間に割り込んだ。
「あっ、魔王様! お待ちを!」
ふたりと一羽が転移していなくなる瞬間、謁見の間にはオリーヴィアの嘆きの声が響いた。