魔女ごときが魔王様をダマせるはずがない

 ネズミもどきが召喚魔法に応じてくれたとき、イーダはうれしさの余り頬ずりしたことを思い出す。

「きゃー、恥ずかしいっ!」

「どうして?」

「だって魔王様だなんて知らなかったから、あんなことを……」

「あんなこと?」

 魔王はワザとらしく首を傾げた。

(この顔、絶対分かってるくせにー!)

「意地悪……」

「あははっ」

「ふふ……ふふふっ」

 イーダと魔王の視線が交わり、それからわずかな沈黙が訪れた。

(魔王様、だったんだ……)

「……僕は本当にもう戻らないといけないから行くね」

「魔王様、」

「うん?」

 引き留めたものの、話すことがあるわけではなかった。

 それでも行ってほしくなかった。
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