魔女ごときが魔王様をダマせるはずがない

「あー……」

 別れ難くて、何か言うことを探す。

 けれど、魔王に言えるようなことは何ひとつ浮かばない。

 そんなイーダに魔王は静かに近づいた。

 魔王は躊躇いがちに屈んだ。

「そういえば、今僕らふたりきりだ。対価、もらっていい?」

 イーダは返事ができずに、ただただ魔王を見つめた。

 魔王はゆっくりと顔を近づけた。

 逃げようと思えば逃げられた。

 けれどイーダは逃げるつもりなど毛頭なく、目を閉じ胸を高鳴らせて待った。

 それは優しく、ほんの少し触れるだけのキスだった。

 イーダはますます魔王とこれっきりで別れたくなくなってしまった。

「お願いしたいことがあったら、またいつでも遠慮なく言って」

 そんなイーダの心情など知らず、魔王は茶目っ気たっぷりに微笑んだ。

「対価……」

「うん」

 イーダはもう1度真っ直ぐに魔王のことを見た。
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