魔女ごときが魔王様をダマせるはずがない

「とかそんなこと関係なく、キスしてほしいです」

 イーダが言い終わらないうちに、魔王はイーダの腰を抱き寄せた。もはや魔王から笑みは消えていた。

 そうしてイーダの口は塞がれた。

 初めてのキスや先ほどのキスとは全然違う。

 触れるのではなく、食むような……

(魔王様……魔王様…………魔王様!)

 イーダも魔王の腕を夢中で掴んだ。

(このまま……このまま一緒に魔界に連れ帰ってほしい!)

 けれど、魔王の腕からイーダを抱きしめていた力がすうっと抜け、唇も離れてしまった。

 魔王はイーダの希望を尊重してくれただけのこと。それにガッカリするのはお門違いだ。

 分かっていた。

 分かっていたけれど、ずっと抱きしめていてほしかった。

「魔界で待ってる」

 そう言い残し、とうとう魔王は消えてしまった。

< 215 / 227 >

この作品をシェア

pagetop