魔女ごときが魔王様をダマせるはずがない

 それでも20年弱、ほぼ20年振りだった。

 にも拘らず、その呼び名はソフィーの口からするっと出てきた。

 ラーシュは頷くと、くちばしで手紙を挟み、すぐさま飛び立っていった。

 本当に賢いカラスだと、ソフィーはいつものことながら感心した。

(さてと、私も出発の準備をしよう)

 ソフィーはひとりでも運べるだけの薬を運搬用の密閉瓶に詰め、箒に縄で括りつけた。

 それから外出用のローブを羽織り、魔女たちに声をかけた。

「留守中はくれぐれもよろしくね。何かあったら、大ばばにでも相談してくれる?」

 大ばばとは前・大魔女のことだ。

 魔力こそすっかり衰えたものの、知恵と経験においては誰よりも頼れる存在である。

 妹や娘たちは心細そうな顔をしながらも、しっかり頷いてくれた。

(この中で一番不安になってるのは私かもしれない……)

 ソフィーは自嘲気味にこっそり笑った。
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