魔女ごときが魔王様をダマせるはずがない
「あなたは男の子? 女の子? そう、男の子なのね」
首を縦に横に振る姿は、イーダの目には何とも愛らしく映った。
「うーん……『まる』ちゃんはどう? えっ、ダメ?」
全力で拒否らしい。頭をぶんぶん左右に振られてしまった。
「かっこいいのがいいのかなー。なら、『こてつ』っていうのは?」
これもお気に召さないらしい。
「えー、難しいな……」
悩んでいるうちに、ネズミもどきの姿が薄くなっていくのに気がついた。
魔法陣の一部が乾いて消えかかっていた。
「待って、待って!」
ネズミもどきを片手に乗せ、魔法陣を上書きしようと、もう片方の手を慌てて水差しに突っこんだ。
「あっ!」
間に合わなかった。
テーブルには不完全になった魔法陣が残っているだけだった。