魔女ごときが魔王様をダマせるはずがない
「大ばば、早く!」
大ばばがやってくると、みんなは一斉にテーブルを指差した。
「ほら、テーブルを見て!」
「あれ? いなくなってる……」
魔女たちは蒸発して消えかかった魔法陣を見て、何があったのかを理解した。
それから大ばばに、わーわーと説明し始めた。『こんな角が生えてた』だとか、『ネズミのくせに契約前からイーダの言うことを理解してた』だとか。
けれど、イーダにとってはそんなことは些末で、どうだってよかった。
(あの子は私の声を聞き取って、私と契約するために来てくれたんだ!)
よろこんでくれて、笑ってくれて、一生懸命返事だってしてくれたのだ。
(もう一度召喚したら来てくれるかな……)
「イーダ、人騒がせすぎ」
「二度といい加減な呪文を唱えたりしたらダメよ?」
「イーダ、聞いてるの?」
次に召喚するまでに、あの子が気に入ってくれそうな名前を考えておこう、とイーダは誓った。
そのためにも、1日も早く王都民には元気になってもらう必要がある。
イーダは袖をまくって気合いを入れ直し、薬作りを再開した。