魔女ごときが魔王様をダマせるはずがない
しかし、人外の美形が漂わせる物憂げな空気にも、侍従長は慣れたもので全く動じない。
「前回も前々回もそう言って魔王様が拗ねるから、主人をずいぶんと待たせてしまったんですよ? これでは使い魔失格です。私のことを切って、別の使い魔と契約されでもしたら、どうしてくれるんですか!」
(知ったことか。いっそ切られてしまえ!)
魔王は意地の悪い気持ちになった。
「人間なんかに仕えるだけでは飽き足らず、『ラーシュ』なんて人間のつけた名前を魔界でも名乗って……本当は***のくせに」
「わー、わー、わー! 本当の名を不用意に呼ばないでください。どこで誰が聞いてるか分からないんですから」
「大丈夫だよ。僕は誰かの名前を呼ぶときは、その者以外には聞き取れないように必ず魔法をかけてる」
魔王は、『ふん』と鼻をならした。
「ふう、心臓に悪い……だとしてもです! 私のことは『ラーシュ』と呼んでください」
「わかったよ、ラーシュ。これでいいんだろう?」
侍従長は『ええ』と満足気に頷く。