魔女ごときが魔王様をダマせるはずがない
「長い付き合いの魔女でして。ずっと見守ってきましたから、すっかり娘みたいな感覚なんです」
「娘って……魔界から人間界へと漏れ出ている我々の魔力を、ちまちまと吸収して使ってるだけの小っぽけな存在だろ?」
「それが微々たる魔力なのに、工夫して上手いこと使ってるいるんですよ! いじらしいこと、この上ないです。ああ、私のことを人間界に召喚してくれるのも、そのひとつでした」
魔王は鼻に皺を寄せ、1度目よりも勢いよく『ふんっ!』と鼻をならした。
「それで、私は人間界に行ってきてもよろしいですね?」
魔王はぷいっと横を向き、頬杖をついた。
「行けばいいよ、行けば」
「それでは行ってまいります」
侍従長は魔王のことを一切気にかけることなく一礼すると、その姿を真っ黒なカラスに変えた。
それから間もなくすると、徐々にカラスの体は透けていき、しまいには完全に消えてしまった。
「***はいいよな。ラーシュなんて名前をもらって……」
侍従長がいたはずの空間を眺めながら、魔王は独りごちた。
「魔王城から出られて……」