魔女ごときが魔王様をダマせるはずがない

 魔王は自分の言動が、子ども染みたただの八つ当たりだと自覚していた。

 もっとも、侍従長だってそんなことは承知している。だから過度に受け止めることはせず、毎回笑って適当な返しをしてくれているのだ。

 魔族が人間界に行くには、人間のそれも魔女と呼ばれる限られた者たちに召喚してもらうしかない。

 そして、魔族なら誰でも魔女の声が聞こえるというわけではない。ごく運のいい者だけだ。

 そう、まさに侍従長のような。

 まだ幼かった頃、侍従長からその話を聞かせてもらうのがお気に入りの時間だった。

 侍従長は毎回、『その声が不意に聞こえたんですよ』と語り始めた。

 しかし、どうして自分にだけ聞こえてきたのかまでは分からなかったという。

 それでも、この声がそれだと理解できた。魔女が自身と契約してくれる小動物を呼んでいる声だと。

 魔女たちはお使いのような簡単な仕事をさせるために、小動物と契約を結ぶ。

 そのための召喚魔法が、どうしてだか魔界にまで届いてしまうことが稀にあるのだ。
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