魔女ごときが魔王様をダマせるはずがない

 侍従長は魔王には使い魔になることを禁止しておきながら、自分が人間界に呼ばれたときには決まってうれしそうに出かけていった。

 魔界に閉じこめられている魔王のほうが、よほど不自由でつまらないと思う。

 魔女のことを『小っぽけな存在』と揶揄したのは、自身に呼びかけてくれない悔しさゆえにだ。

 魔界で誰よりも人間界に憧れているのは自分だと、魔王は自負していた。

 魔界はまるっと魔王のものなのだ。細部に至るまで掌握していて、何もかも知り尽くしている。

 この世界が大事であることには違いないが、今さら魅力的に映るはずもない。

 侍従長のような、人間界に招かれたことのある運のよい者たちから聞く話はどれも新鮮だった。

 侍従長はああ言っていたけれど、使い魔になるにはカラスだかネズミだかに化けなければならないのだから、魔王だとバレることはないはずだ。

 だったら……と思う。
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