魔女ごときが魔王様をダマせるはずがない

 寄り道するのは、お使い業務のあとでは人間界を物見遊山することができないからだ。

 ソフィーから頼まれた仕事を終えると、毎度強制的に魔界に戻らされてしまう。

 魔族と人間では属している世界が異なるという基本原則は、魔法の契約下においてしか曲げることができない仕組みになっているらしい。

(少し残念な気はしますが、今回は指示通り、急ぎで配達するべきですね。魔王様も不貞腐れていたことですし、丁度いいです。早く終わらせて、魔王様の機嫌を取ることにしましょう)

 手紙をくわえると、翼を広げた。

(サンディ……20年振りでしょうか。こっちの方角のようですね)

 ラーシュは、一度会ったことのある者の気配は忘れない。すぐに辿ることができた。

 これは強い魔力が必要な芸当でもなく、魔王城で侍従長をしている者の特技のようなものだった。
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