魔女ごときが魔王様をダマせるはずがない

「それじゃ、お願いしていい?」

「もちろん」

 木べらを受け取ったイーダは、鍋からむわっと上がってきた蒸気を吸い込んでしまい、ケホケホと咳きこんだ。

「くっさー」

「でも、この強烈なにおいになったってことは完成間近なんだから」

「そうだね。それにしても本当に強烈……」

 完成したらこのにおいは魔法をかけて誤魔化すが、製造中の今はそれができない。余計な魔法をかけると狙い通りの効果が出なくなるのだ。

 イーダは代わりに自分の鼻を麻痺させる魔法をかけた。

 ついでに、自慢の腰まで届くネイビーブルーの髪も魔法で束ねた。

(準備はできた。さーて、がんばりますか)

 もうひとつ自慢の瞳で鍋を覗き込んだ。

 この王国では珍しくないヘーゼル色だが、町に出かけると『綺麗な瞳のお嬢さん』と男性からよく声をかけられる。
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